猫のイラスト
パソコンのイメージ

温泉旅館物語 363歳、涙のパソコン挑戦記

序章

伊豆の西の入り口に位置する伊豆の国市に、伊豆三古湯の一つ「伊豆長岡温泉」がある。温泉街は、小高い源氏山の東側に源頼朝も入浴したといわれる古奈温泉、西側には戦後急速に発展した歓楽街型の長岡温泉とで構成されている。

かつらぎ山からの伊豆長岡温泉

長岡地区のメイン通り中央に、源氏山を借景とした「せせらぎ荘」という小さな旅館がある。板長が沼津魚市場に直接仕入れに行くという料理自慢の宿だ。

ところ変わって、ここは埼玉の川越市にあるマンションの一室で、「湯の街ネヲン(以下、ネヲン 又は 所長)」が営む、通称「総案」という「ホテル旅館・ドライブイン総合案内所」の事務所である。

今は2005年(平成17年)、ネヲンの総案事務所に、伊豆長岡温泉の「せせらぎ荘」の花山君という若い営業マンが来所した。花山君(以下、花ちゃん)というイメージから爽やかでかわいい青年を想像していた。

花ちゃんのイメージイラスト

花ちゃん

電鉄系の大手旅行会社から、乞われてこの旅館に転職したという。特技はパソコンだった。

インベーダーゲームしか知らないネヲンにはチンプンカンであるが、オンライン対応のロールプレイングゲーム [FF11] の超有名なプレイヤーだそうです。

初対面はビックリであった。身長180㎝、体重100㎏を、いずれもオーバーしている巨漢であったからだ。ただし、幼さが残った顔と肌がきれいで清涼感があり、モチモチっとしていたので見た目ほどの圧迫感はなかった。

ある日、突然…

ネヲンは現在63歳である。ネヲンと花ちゃんは親子ほど歳が違うせいか、なんとなく疑似親子のような雰囲気が生まれていた。来所は今回が三度目で、二日間の予定で営業に来た。

今は、公園のイチョウが黄色く色づいた晩秋である。花ちゃんは来所すると早々に、ネヲンに思いもよらないことを言った。

「ボケ防止と、時代遅れにならないように、パソコンをやってみろ!」

と、生意気な息子がオヤジに有無を言わせないような言い方であった。

「なに、パソコンをやれってか? このオレにか? ムリ、ムリ!」

この歳まで、一度もパソコンにふれたことがないネヲンの反応だ。

「そんなことはないって、所長!」

「そんなことはある。絶対に無理に決まってるだろう! ダメダメ、ダメだ!」

「さあ、パソコンを買いに PCデポへ行きましょう、所長!」

「なぁ~にぃ~! そのうえパソコンを買えってか? 買っても無駄だ! 宝のもちぐされだ! そんなモノ、オレには無用のシロモノだ!」

と、ネヲンは強烈に拒否し反発した。

パソコン…

このあと花ちゃんは、抵抗するネヲンを強引に連れ出して、隣まちの「PC DEPOT」へといった。本日の仕事はサボです。せせらぎ荘の社長ゴメンナサイ!

店内でネヲン、パソコンのことは何も分からないので、ただ花ちゃんのあとをついてまわった。だが、なんだか知らないが気分はウキウキとしていた。

パソコン製品であふれる PC DEPOT の店内でネヲンは、何でもいいからかっこいい製品で揃えてくれと思っていたが、高校生時代からパソコンをやっていた花ちゃんの機器選択基準は全く違ったいた。とにかくお金をかけないことであった。

そんな花ちゃんには、これだけの金額でこれだけのコトができるボクは素晴らしいでしょう。という「自負の念」があるみたいだった。ネヲンは大助かりである。

そんなわけで、パソコン本体、モニター、キーボード、マウス、電源ケーブル、接続ケーブルなどのパソコン一式を買い求めた。なお、帰りには、花ちゃんの出張のアリバイ作りのために近くの「ステーキのどん」で、ハンバーグランチをした。

モニター
モニター
キーボード
キーボードとマウス
デスクトップパソコン本体
パソコン本体

モニター

ネヲンは、このテレビのようにドッシリとしていて頑丈そうな中古品のほうが、頼りなさげな薄型のディスプレイよりもいいと思った。 7,970円+消費税。

キーボードとマウス

なぜか花ちゃんは、キーボードとマウスだけは新品を買ってくれた。ネヲンは、人差し指でキーボードをチョンチョンと叩きながら、いずれ、ピアノを弾くように両手で操作する自分の姿を想像していた。6,200円+消費税。

パソコン本体

花ちゃんは、ただの箱みたいなものを指さし、人間の脳に当たるパソコンの本体がこれだと言った。が、ネヲンには、この言葉が俄かには信じられなかった。テレビのようなディスプレイこそが、パソコンの中枢部分だと思っていたからだ。

さらに花ちゃんは、OS・CPU・メモリなど、それが、どおのこおのと説明してくれたが、ネヲンは、ちんぷんかんぷんであった。45,000円+消費税。

パソコンが並んだ

パソコンを事務所に運び込むと、花ちゃんは、あれよ、あれという間にセッテングした。電話機と複合機しかない殺風景なネヲンの事務所にパソコンが設置された。この日、2005年11月09日(大安)からネヲンとパソコンのお付き合いが始まった。

そして花ちゃんは、電源のオン/オフ、パソコンの起動と終了、マウス操作やキーボードの操作方法などパソコンを扱う基本を教えてくれた。

ネヲンが覚えられたのは、パソコンの起動と終了までであった。あとは、頭がパンパンになって、何が何だかちっとも分からなかった。

「もういい! 今日はここまで」

頭がこんがらがって、急に疲れが出てきたネヲンは花ちゃんの教えを拒否した。花ちゃんは不満げであったが、日も暮れてきたので宿泊先のビジネスホテルに帰った。

花ちゃんが帰ったあとネヲンは、目の前のパソコんを撫でまわしながらにんまりとして、遠い昔、我が家にテレビが運び込まれた時と同じ感動を覚えた。

これって、オギャーと生まれた時から電化製品に囲まれて育った、今の若者にはわからないであろう。この感動を二度もあじわってネヲンは幸せに浸った。

パソコンに命名!

イラスト・諸葛孔明

三国志

この幸せを長く忘れないために、それぞれの機器に名前をつけてかわいがることにした。我が愛読書、「三国志」横山光輝の漫画から名前を拝借し命名した。

ディスプレイは 劉備玄徳

パソコン本体は 関羽

キーボードは 張飛

マウスは 趙雲

 Windows XPは 孔明

63歳、涙のパソコン挑戦記!

パソコンに対する高揚感もここまでであった。ネヲンは間もなく高齢者の仲間入りをする。思い知らされたのは、肉体的、頭脳的にも柔軟さがなくなったことである。目が疲れる痛くなる。机の前に座ることが苦痛である。そして、新しいことが覚えられない、すぐ忘れる。などなど、パソコンを学ぶ高齢者の苦悩が始まった。

二日目の朝…

花ちゃんが、おはようございますと元気にやってきた。席に着くと、雑談をしながら熱いお茶をすすった。若者には珍しいコーヒー嫌いであった。

ネヲンと花ちゃんはパソコンの話には触れず無言で席を立った。昨日は一日中サボったので、今日は仕事をしようと二人の間に暗黙の了解があったのだ。

ネヲン、ハンドルを握ると県の北東部に向かった。加須、羽生地区は、平坦で肥沃な土壌に恵まれ県内有数の穀倉地帯であり、手打ちうどんや地酒の生産が盛んです。

加須うどん

加須うどん

埼玉は江戸時代から小麦の栽培が盛んで、うどんを食べる習慣が根づいていた。その生産量は全国第2位だ。

加須うどんは、約300年前、總願寺の参拝客にふるまった手打ちうどんが起源で、地元産の小麦粉を使って手間暇かけて打ったコシの強さと滑らかなのどごしが特徴。

二人は、名物・加須うどんで昼飯をすまし、早々にパソコンが待つ家路についた。

さあ、やってみろ!

花ちゃんは、事務所に戻るとネヲンをパソコンの前に座らせ、

「さあ、昨日教えたことをやってみてください!」

と、ビビってるネヲンの背後からけしかけた。

初心者、特に高齢者はパソコンのようになじみの薄い機器からの威圧感は凄い。ネヲン、こんな体験は二度目だ。最初は、自衛隊で運転免許取得訓練の初日、大型トラックのハンドルを握らされ、「動かしてみろ」と突然、教官に言われた時だ。

「ふざけるな、そんなこと急に出来っこねえ!」

とネヲンは、心の中で反発した。

モジモジしているネヲンを見て、花ちゃんは、

「何をやってんですか」

と、その声にやや怒気がこもていた。そして花ちゃんは、これはだダメだと思ったのか、一から操作の手順を説明してくれた。ネヲン、それを途中で遮って、

「分かった、分かった」

と、言ったが、手元はオタオタしたままであった。ネヲン、実際には何にもわかっていないのに、な~んだ、そんなことかと、分かったかのように振舞うクセがある。

「所長は、すぐ、分かった分かったというが、何もできてないじゃないですか!」

と、今度は花ちゃん本気で怒った。

ネヲンは笑ってこの場をごまかそうとした。こんな一面も、二人の間に親子みたいな関係があったればこそであった。少しの間、沈黙が続いたあと、

「これなら出来るでしょ。次に僕が来るまでにパソコンに慣れておいてください」

と、言いながら花ちゃんは、持参した CD-ROM から、マージャン・囲碁・オセロ・トランプとブロック崩しや、ピンボールなどのゲーム類をインストールした。

ネヲン、旧来の単純なゲームばっかりだったので不満そうな顔をすると、

「今の所長には、最新のゲームは無理ですって…、10年早い!」

と、花ちゃんに一蹴された。そして、花ちゃんは静かに伊豆長岡に帰っていった。

半年が過ぎた

パソコン導入後、花ちゃんは月一のペースで来所し半年が過ぎた。

花ちゃんは、ネヲンがパソコンをおもちゃ代わりに使っていることを知ると、それ以上、パソコンの話をしなかった。花ちゃんの様子からは、あのパソコン導入時の熱意が全く感じられなくなった。ネヲンとって、これは不思議なことであった。

今朝、そんな思いを胸にネヲンは、久喜市方面に同行セールスの車を走らせた。

車が動き出すとさっそく花ちゃんに聞いた。

「ねえ、ねぇ、花ちゃん! パソコンって何ができるの?」

「パソコンにはたくさんの機能があるが、基本的には、『インターネット検索』や『文書の作成』と『メール送受信』の三つです。そのほか、動画編集、プログラミング、オンライン会議などなどがありますよ」

と、頭のいい花ちゃんは分かりやすく教えてくれた。

続けて花ちゃんは、ネヲンの胸の内を見透かすように言った。

「所長は、パソコンを教育・ビジネスシーンで使うものと決めつけてるでしょう」

「そのとおり、パソコンはそのように活用してこそ効力があるんだ!」

と、ネヲンは強く言って、昔の経験談を自慢げに語った。

ある時、ソロバン片手に仕事をしていたネヲンに、社長の工業大学生の息子(坊ちゃん)が、うちの旅館の会計のシステムを分かりやすく説明してくれたら、僕が会計機を作ってあげるよ、と言った。

そして、坊ちゃんは、ネヲンの説明通りに、ベーシック(プログラミング言語)を駆使してプログラムを書きあげ、秋葉原で部品を買い集めて会計機を完成させた。

この会計機は、全国的にも数例目で、下田財務事務所からのお墨付きも得た。ある大手電子機器会社からは、プログラムを公開しないようにとの懇願もあった

ネヲンにはこの時、ただひたすらにキーボードをたたく坊ちゃんの姿と、プリンターから吐き出される蛇のように長いロール紙が、強烈な記憶として残っていた。そんなことから、ネヲンにはパソコンに対するイメージが出来上っていたのだ。

ネヲンは、昔話が終わると、

「だから、パソコンを設置した時から、いつか花ちゃんの指導を受けて、オレが、坊ちゃんの姿と重なる日を想像していた。なのに、そんな気配が一向にないことが不可解なんだよ。なぜ? どうして?」

と花ちゃんに、これまでの疑問をぶつけた。

花ちゃんは、ネヲンの問いかけにはあえて答えず、

「所長、パソコンは宝の箱なんです。先ほど話したようにその機能は山ほどある。だから、パソコンの正しい使い方というのはないんです。使う人がそれぞれに勝手に楽しく使えばいい。だから僕は、映画やドラマの視聴、オンラインゲームのプレイなど、さまざまなエンターテインメントを楽しむためにパソコンを活用しています」

と、淡々と言った。

「あっ! そういう事か! 分かった!」

花ちゃんのこの教えで、パソコンはビジネスから趣味まで幅広く活用できるが、すべて使いこなす必要はない。その時々で、人それぞれに活用すればいいと知った。

腹が減った

ここ久喜市は、桜、藤、菖蒲、ラベンダー、コスモスなどの花々が咲くまちです。近頃は、減反政策により稲作から蕎麦への転換も進み、お蕎麦も美味しいまちです。

デカ盛りのそば

奥会津

ここ奥会津はデカ盛りの有名店です。富士山のような超、超山盛りのソバとキングサイズのかき揚げです。

「お味は?」腹一杯食ったら味なんて解らないよ! 「お値段は?」記憶にない。身体中の血液が、全部、胃袋にいってしまい脳の活動が停止していたのだ。

花ちゃんもこれにはビックリ! だが、軽々と平らげた。ネヲンは半分を残し、お店に用意されていたナイロン袋に詰めて持ち帰った。腹がふくれると幸せな気分になる。

胸にたまっていたモヤモヤが晴れたネヲン、午後は何も考えずセールスに専念した。この地区からの帰路は、平坦な道を夕日に向かって走るので幻想的な世界にひたる。

いざ、新天地へ!

ここまでで、パソコンをどのように活用するかという問題は解決したが、実は、基本中の基本、「パソコンの使用技術の取得」という課題は置き去りのままである。

これまでネヲンがグダグダ言ったことは、パソコンを自在に操れるようになってから考えればいいことなのだ。だから、ジジイは新しいことに挑戦できないのだ。

ジジイたちがもつ、オレたちは知識や経験が豊富だという、この自負心が、パソコンの基本的な操作習得の初期には、逆に足を引っ張るのだ。

パソコンの基本操作習得の最速で最短の学習法は、「オギャー」と生まれたばかりの赤ん坊に帰ることだ。もの覚えが悪くなったり、うまく操作ができないのは、すべて加齢が原因だ。悲しむことはない。屁理屈を言ってないで、とにかく繰り返しやってみよう。さあ、頑張ろう!

ネヲン、気持ちを切り替え、三歳児に戻ったつもりで、焦らず、慌てずゆっくりと、一歩一歩あゆむことを決意した。

旅立つ飛行
いざ、新天地へ!

ネヲンにはエンターテインメントを楽しむという趣味がなかったので、会計機を作ってくれた「坊ちゃん」のように、パソコンを活用する道を選択した。

そんなわけで、「よくわかる BASIC」- 基礎から応用まで - という、BASIC によるプログラミングの解説書を買った。しかし、全く歯が立たず、たった三行でアウト。

またまた、ジジイの屁理屈が先行してしまった。ネヲン、今度こそはと、しっかり反省して三歳児のもどる決心をした。

マウスに慣れよう

さて、パソコンとは思ったよりも取っ付きにくいシロモノだ。その代表がマウスだ。コイツは、なかなか思うようには動かない。再出発の最初の大きな壁であった。

例えば、マウスポインタがパソコン画面のどこにあるのか解らない時がある。そんな時は、手元のマウスをクルクルとまわしてその場所を確認する。

また、クリック先をマウスポインタで追っかけていると、知らず知らずのうちにマウスのヤツが、机上の端のほうへ行ってしまう。腕が伸びきってしまうのだ。そんなときは、マウスの接続コードを引っ張ってマウスを元の位置に戻した。

ネヲンが思うに、高齢者がパソコン操作力を高めるには、まず、基本操作を「身体におぼえさせる」ことだ! だから、パソコンゲームは、基本操作を身体で覚えさせるには有効である。余計なことを考えずに楽しみながら続けよう。

ネズミが死んだ?

朝一番にやることはパソコンの電源を ON にすることだ。いつものようにパソコンが立ち上がった。さあ、今日も楽しい一日の始まりだ。マウス君、ご苦労さんといいながら、電子メールのアイコンの上にマウスポインタをもっていきクリックした。

マウスがおかしい

マウスがおかしい

ウン? おかしいぞ、いつもとようすが違う!

エッ! エ~ッ? メールのページが開かない!

なんでだ、なんでだ! と、慌てふためくネヲン。

パソコンの電源の入れ方が悪かったのかな? と、思ってネヲンは最初からやり直すことにした。

まず、シャットダウンするために、スタートボタン上にマウスポインタを移動した。ウン! ウ~ン? ここでも反応なしだ! 慌ただしく何度も何度もクリックした。

ヤバイ!、ウィルスか? どうするどうすると、ひとり慌てふためく。

この時、ネヲンが無意識のうちにやったことがある。ディスプレイの上部を平手で二度叩いた。さらに、横っ腹をバンバンと叩いた。どちらも反応なし。接触不良かと思って、マウスを握って空中で激しく振ってみた。マウスをカチカチとヒステリックにクリックしてみた。いずれも反応なし。

以上、オジさんが過去の経験をもとに、電化製品に思いつく限りの処置をした。しかし、結果はノーであった。万策は尽きたと絶望感に襲われた。

ヨシ! こうなったら荒治療しかないと、思い切って、エイ、ヤーのかけ声と共にコンセントを抜いた。南無三…、今度は仏様にも縋った。そして、再びコンセントを差し込み再起動。またまた、結果は同じ。以上は、絶対にやってはいけないことだ。

素人療法の万策がつきて、パソコンの師匠・花ちゃんに電話をして指示を仰いだ。

「お早う御座いま~す。花山で~す」

と、電話の声が弾んでいた。人の気も知らないで、なんだ、コンチキショウめ! と、ちょっとムカついた。が、パソコンを復旧させるのが先決なので気を落ち着かせトラブルの内容を伝えた。

「あっ、それってマウスがイカレタんですよ、買い換えてください」

と、いとも簡単な答が返ってきた。トラブルの原因はマウスが壊れたのだった。

あとで、このときの花ちゃんが上機嫌だったワケが解った。ちょうどゴルフを始めるところだったのだ。

そんなわけで、PC DEPOT にマウスを買いにいった。パソコンショップで、たった一人で買い物をする自分が、なんだか、とってもかっこよく思えた。

マウスには脳みそが…

パソコンが置いてあるデスクの下には埃まみれの配線のヤマがある。おぞましい光景だ。ネヲンはずうぅっ~と見ないようにしてきた。が、マウスを交換するために配線をかき分けて、自力で新品のマウスに交換した。

我ながらよく出来たものだと、埃まみれななった手で自分自身に拍手をおくった。

ネヲン、マウスは、ソケットにねじ込むとパッと明かりがつく電球と同類で、マウスのコードをパソコンに接続すればすぐに動くものだと思っていた。

でも、交換してもマウスが使えない。てっきり不良品だと思い PC DEPOT へ文句を言いに行こうと思った。が、念のためにマウスについていた能書きを広げてみた。

その能書きに書かれていることを知ってビックリ仰天であった。何と! マウスには「脳ミソ」があると書いてあったのだ。新発見である。

マウスが「脳ミソ」を活性して動きまわるには、パソコン本体が出す命令をインストールしなければならない。そんなこととはつゆ知らず、ネヲンはマウスの接続を終えると、すぐにマウスを使ったのだ。マウスにすればさぞ迷惑なことであったろう。

このデキソコナイのマウスめ! と、ののしって不良品だと決めつけた無知なオレでごめん! と、マウスに謝った。

ちょっとひと一休み

みなさんは、この砂時計のマークがなんだか解りますよね!

砂時計マーク

興奮冷却マーク

これは、パソコン初心者のための興奮冷却マークです。はやる気持ちを抑え心落ち着けてくれるお助けマンなのです。砂時計が消えるまで静かに待とう。

このマークが出たらマウスから手を離し、深呼吸をし、気を落ち着かせ、遠くを見て視力の回復も図ろう。

ネヲン、最近はまっているゲームがある。AI 囲碁だ。コイツはとても生真面目なヤツである。ネヲンがセオリーを無視して適当な場所に碁石を置くと、パソコン君は、「興奮冷却マーク」を出しチョット待っててという。

そして、パソコン君は「ウィーン」と唸り声を上げて、空調機器をフル回転させ目一杯頑張る。ネヲンの適当な一手に、真剣に対処しているのだ。そんなパソコンを可愛いやつだと思えるようになって、最近は近親感も芽生えてきた。

一本指打法でOK!

パソコン操作の習得には、「マウス」だけではなくもう一つ身体で覚えものがある。それは、「キーボード」である。これは思い込みさえ排除すれば簡単に解決です。

一本指打法
一本指打法

花ちゃんは得意げに早打ちをやってみせ、このようにヤレと言う。早く打て、しかも、両手の指を使ってやれと。そんなことはできねーと、ネヲン!

解説書も同罪である。キーボードの正しい操作方法などと称して、若者流のやり方を図解入りで説明している。フザケルナ!

そもそも、キーボードの一本指打法が非難されるいわれはない。一本足打法の王さんは、世界一のホームラン王になった。文句があるか!

60年以上も働かせたこの身体、今ではあっちこっちにガタがきている。特に運動神経などはみるかげもない。「早打ち」なんぞに挑戦する余裕などはない。

キーボードの最大の役割は、使い手の命令を正確にパソコンに伝えることだ。だから、馬鹿奴らがいう速さではない、正確さなのだ。それさえできれば両手で操作ができなくとも悩んだり悲観することはない。

では、一本指じゃかっこ悪いという方、また、ボケ防止のために両手を使いたいという方に良い方法を教えましょう。それはいとも簡単な方法で、右手の人差し指と左手の人差し指とを使って、右、左、右、左と一文字ずつ交互に打てばいい。立派な二刀流の使い手である。

モニターにも盲点あり

先日、ある友人から楽しい話を聞いた。実家の後期高齢者のお父さんが、パソコンを買ったそうだ。彼は、父親のその気概を喜んだし、目がよくないからといって22インチのモニターにしたと聞いて、これにはビックリしたそうだ。

この話しを聞いたネヲンは思わずニッコリとした。それは、大型のモニターを選んだお父さんの考え方が大正解だからだ。さすが年の功だと感心した。実はネヲンも、一番泣かされたのがモニターだった。お父さん頑張れ!

その友人には、喜びのほかに、困ったこともできたそうだ。それは、父親が母親にはパソコンを触らせないのだ。理由は、素人がいじたっら壊れるからだそうだ。パソコンを前にしていがみ合う両親のことを思うと前途は多難だとなげいていた。

目がつかれる

モニターに泣かされる

ネヲン、パソコンを前に老眼鏡をかけて頑張っても30分で限界がくる。しかたなく、しばらく休んで再開しても、次はもっと早く、わずか5~6分でアウトになった。

それ以上は、目が痛くなってとても耐えられない。モニターには肉体的な苦痛を強いられる。悲しい現実だ。

そんなワケでアドバイス。まずは、モニターの文字のサイズを ”大” にしましょう。

歳を重ねたもの達は、目の力や記憶力など肉体的なことは減退するばかりだが、悩んでいても仕方ない。でも、我々には若者達よりも優位なものもある。それは、経済的な余裕である。先ほどの友人のお父さんのように、あるものは有効に使おう!

ネヲンも花ちゃんにお願いして、19インチのモニターに買い換えた。ちょっと寂しくなるが、テレビのようなモニターにさよならである。理想をいえば、もっと大画面のモニターにして、老眼鏡なしでパソコンを使うことである。

孟嘗君

話は飛躍するが、人類で一番初めにパソコンを使いこなしたのは、紀元前の中国戦国時代の斉(せい)の国の宰相・田文(でんぶん)であろう。田文は戦国四君の一人で諡号(しごう)を孟嘗君(もうしょうくん)といった。

孟嘗君といえば…

【鶏鳴狗盗】(けいめいくとう)の故事が有名です。この故事にもあるように鶏の鳴きまねの上手い人、泥棒の名人…等々、一芸に秀でた人達を、3,000人もその屋敷内に召抱えていたそうだ。いわゆる、食客 3,000人といわれているものです。

一芸に秀でた人達を3,000人も屋敷うちに住まわせていたということは、パソコンというボックスの中に、3,000余もの情報が入っているのと同じようなものだ。孟嘗君こそが、人類史上はじめてパソコンの概念を確立した人だと、ネヲンは思っている。

超図解 もっとわかりやすい パソコン超入門

ネヲン、近所の書店でパソコンの入門書を買った。これを選んだ理由は、カバーのイラストが気に入ったからである。偶然とは恐ろしいもので、これが、ネヲンにとって最高に相性のいいパソコン入門書となった。

エクスメディアの本

パソコンの入門書

エクスメディア社の「超図解」シリーズのパソコン超入門書です。この入門書は、ネヲンの初期パソコンの学習時の最良の指南書でした。

この本にめぐりあわなければ、ネヲンのパソコン人生はなかったという程のものです。残念ながら、この本の発売元のエクスメディアは、つい最近倒産してしまった。ネヲンもその一端を担ったのではと思われる。

ネヲン、この入門書と出会って、やっと、文字が思い通りに入力できるようになった。たとえば、「寄ってってー」という短い単語をローマ字入力できるようになった。これが出来たときは自分自身に拍手をした。

思い通りに文章が綴れる…、ここまでくれば、「オレはパソコンが出来るぞ」と、胸を張れる日がもうすぐです。ここで手を抜くな。今ここが、これからのパソコン人生にとって最大の分岐点なのです。

ちょっと一休み。

昔、高校生時代、都内を縦横に走る都電を乗り継いで学校に通った。当時は、たった一両の車両なのに運転手と車掌の二人が乗務していた。発車のたびに車掌さんが紐を引っ張ってチンチンと鐘をならしていたので、別名をチンチン電車といった。

昔の都電
昔の都電 / 昭和の風景

今では、山手線の11両編成の長い車両をうら若き女性がたった一人で動かしている。池袋駅で乗車して、沿線に風景を眺めようと運転席の後ろの窓から、その光景を目撃したときはわが目を疑った。車掌さんも乗っているが夢のよう時代になった。

その当時の漢文(かんぶん)の先生の言葉が耳に残っている。「漢文は、習わないことは絶対に解らないぞ!」って言った。そして、「教師の俺だって勉強しないと解らないのだから、ボーッと聞いてるお前等は、なおさら解らないぞ!」だって…。

思えばパソコンもこの漢文と同じだ。一つ一つじっくりと階段を登らなくては未来が開けないのです。今は時間がかかってもいい。ここで費やした時間はあとでしっかり回収できます。パソコンとはそういうものなのだ。

超図解 わかりやすい EXCEL入門

入門書には超特大の落とし穴がある。早まるな! 入門書自体の問題ではない。我々、読者側に問題があるのだ。特に、「超入門書」というヤツは、まるで三歳児用の絵本のようである。ほぼ平仮名で活字も大きく漫画入りである。

活字に慣れっこになっているおじさん達は、そんな入門書をパラパラとめくって妙に安心し、解ったような気になってしまう。このように、パソコン入門書をなめてしまうのが問題なのだ。己の実力を知れということだ。

EXCEL入門の本

エクスメディアさん、ありがとう!

うぬぼれの強いネヲンは、なんと、「Word」を飛ばして、 超図解シリーズの「Excel」に挑戦した。挑戦自体は悪いことではなかったが、オレは出来るぞという早とちりで、重箱の隅をつつくよな方向にはしって、ドツボにハマりそうになった。

が、そこは自信家のネヲン、「オレが理解できないのは解説のしかたが悪いからだ」と、八つ当たりをした。

そんなネヲンに、エクスメディアの皆さんが以下のように丁寧に付き合ってくれた。そのお陰で落ちこぼれずにすみました。ありがとう、エクスメディア!

エクスメディアは素晴らしい!

エクスメディアの「超図解 わかりやすい EXCEL入門」が、どのように素晴いのかをお話しましょう。まずは、下記の用紙をご覧下さい。

※質問用紙(B5版)は、EXCEL入門の書籍の巻末に綴じ込まれていたものです。

※解答用紙(A4版)は、エクスメディアから FAX で送付されたものです。

質問用紙
質問用紙
解答用紙
解答用紙

上記の「質問用紙」の下段の空欄に質問事項を書き込んで、エクスメディア宛に FAX 送信すると、右側の「回答用紙」が、必ず、24時間以内に送られてきた。ネヲンは上記の質問用紙を利用して、なんと、延々と150回以上も質問をし続けた。

これって本当に凄いことなのです

当時、近所のパソコン教室の聴講料は一講座(60分) 1,575 円だった。毎回、ネヲンの質問に誠実に答えてくれたエクスメディアの「超図解わかりやすいExcel 入門」の値段は、なんと、たったの 1,499 円だったのです。 FAXでのやり取りが、いかに凄いことかと、お解かりいただけたでしょうか。

今、手元には、質問・返答用紙がヤマとある。この束を眺めながら、よくぞここまで…、と自分自身の粘り強さ(?)に驚いている。また、誠意あるエクスメディアの回答には感謝・感謝の気持ちでいっぱいです。

そして、エクスメディアに申し訳けないという気持ちもある。こんなやり取りに手間暇をかけすぎたことが、倒産の一因ではと考えるからだ。なぜなら、他の出版社は、一回目の質問には回答をよこすが、二回目以降は完全に無視されるからだ。

なお、パソコンの勉強なんだから、当然、エクスメディアとの質疑応答はメールでも出来たがオレは FAX のやり取りにこだわった。理由は簡単で、メールのやり方が解らなかったからだ。それは「パソコン超入門」の第6章・メールを楽しもう! で手を抜いたからだ。お粗末! エクスメディアさんゴメン!

エクスメディアは素晴らしい!

それではエクスメディアとの質疑応答の思い出をいくつかお話ししましょう。その前に、ネヲンには、パソコンを習得するうえで致命的な欠陥があった。それは、横文字(アルファベット)が、ただの記号としてか認識できないことです。

例えば、次のように横文字が混じった文章の場合…。

※これは、TRUEです。こちらは、FALSEである。

※これは、???です。こちらは、???である。と、横文字は理解不能である。

だから、これは TRUE (トゥルー) です。こちらは FALSE (フォルス)である。と、入門書の文字列に、カナ(ルビ)をふらないと先へ進めません。さらに、トゥルーとフォルスの日本語の意味は、はいつまでたっても不明である。やっかいな頭である。

そんなワケで、新しい横文字に出会うたびにエクスメディアに泣きついた。

2006年10月15日の朝、質問 : 私は横文字が全くダメです。読み方を教えて下さい。と、質問用紙にいくつかの横文字を書いて、エクスメディアあてに FAX をした。

今回もいつものように同日の夕刻(19:58)に、下記のような回答書が送られてきた。赤い下線は、ここでの話を解りやすくするために後から書き入れました。

エクスメディアの質問用紙
エクスメディアからの回答用紙

まずは、赤丸①と②をご覧下さい。エクスメディアからの回答には、サポートの範囲を超えた質問には答えられません。といいながらも律儀に答えてくれています。

そして、赤丸③を見てください。さらに、さらに、次善の策も親切に書いてくれています。おもてなしの心が売りの温泉旅館、見習うべし!

オレが回答者なら、何度も何度も同じことを言わせるな、このバカタレが! とキレてしまうだろう。「ググれ、カス!」である。

「ググれ、カス!」の意味とは、それぐらい自分で googleなどの検索エンジンなどを使って自分で調べろ(ググれ)カス野郎! と言った意味で使われている。

教えてください と、教えろ!

パソコン習得の早道は教えを請うことである。教えを請う方法には二ッある。

① まずは、最低限の基本をマスターしてから教えを請う。

それは、「ここが解りません」と、不明な個所を具体的にいえるぐらいの知識を身につけてから、ご教授を願うという考え方である。

② もう1ッは、先ほどの「ググれ、カス!」のカス野郎に徹することだ!

すなわち、このオレが解らないということは、本の書き方が悪い、また、教え方が悪いから何度も聞くんだという考え方である。

浜ちゃんもゴメン!

ある日、南伊豆のホテル弓ヶ浜の「浜田君(以下、浜ちゃん)」が営業にきた。浜ちゃんは、素直なタイプの青年で30才までは東京都内でサラリーマンをしていたが、結婚を機に実家のある伊豆下田に戻った。いい環境で子育てをしたいからだそうだ。

この浜ちゃんはなかなかのしっかり者で、ネヲンが Excel をやっていることを知ると「顧客管理台帳を作りたいから教えて下さい」といった。

それならば今夜、宿泊先のビジネスホテルで予習をしておいでと、ネヲンは、エクスメディアの本を手渡し、Section 45 の予習を促した。

翌朝、ネヲン、パソコンにむかっている浜ちゃんの背後から画面をのぞいた。すると指示とは違うことをやっている。なんと顧客管理とは関係のない図形を描いていた。

ゲンコツをもらった浜ちゃん

ゲンコツをもらった浜ちゃん

それを見てネヲンは、顧客管理台帳を作りたいと言っていたのに、なにを遊んでいるんだと、浜ちゃんの頭をポカリとやった。

浜ちゃんは言われた通りにやっていますと、不満げに言って Section45 のページを開きムッとしていた。

「Section45 にはそんなことは書いてないぞ、どれ貸してみろ! 」

とネヲンは言いながら、本を取り上げ指示したページの確認をした。

なんと、なんと、製本ミスがあったのだ。調べてみたら、セクションタイトルのミスプリで、「Section42」と書くべきでところが、「Section45」と書かれていた。

浜ちゃんは、ミスプリの「Section45」のページを学習し、ネヲンは正式な「Section45」で学習していたのだ。偶然とはいえ不思議なことが起こった。

エクスメディアに間違いを指摘する FAX を送ると、早速、返事が来た。

エクスメディア
エクスメディアからの回答書

上記、赤い二重下線のところをご覧下さい。驚いたことに、ミスプリを2回も見つけてくれたのでエクスメディアが本をくれると書いてあった。

本がもらえることに驚いたのではない。ミスプリ発見者のデーターが保存してあることに驚いたのである。

わずか2,000円弱の本なのに、こんなことまでしているなんて、と驚いた。サービス第一の温泉旅館頑張れ! 世の中かわったぞ!

ネヲンはエクスメディアから本を貰った。浜ちゃんはゲンコツを貰っただけだった。浜ちゃんもごめんね!

超図解 わかりやすい ACCESS入門

ある日、中禅寺温泉のホテル ミヅウミの新人の「吉沢君」が、来所した。新人といっても途中入社で30才を少し超えていた。両親が教員だという吉沢君は、温厚で、おじさんと青年、営業と事務体質が混在る不思議な好青年であった。

これまでは宇都宮市内で事務系の仕事をしていたが、自然に近い環境で身体を動かす仕事がしたくて中禅寺温泉に来たそうだ。奥さんの実家が近かったこともあった。

吉沢君は、花ちゃんとはまったく別のタイプのパソコンの使い手であった。いわば事務系の職場で威力を発揮する実務的なパソコン操作をした。

エクスメディアのACCESS入門

どうせ勉強するなら…

ネヲンが Excel をやっているのみた吉沢君は、どうせ勉強するならレベルが一段上の ACCESS にしたらと勧めた。吉沢君は、20代だった前職の時代に、ACCESS を駆使して会社の事務環境を一新したという。

事務畑の出身で、いつかはパソコンを実践の武器にと考えていたネヲンは、吉沢君の勧めに飛び乗った。が、残念ながら結果は出なかった。

答えが出ない理由は簡単で、齧っては見たものの、かみ砕けなかったのだ。あきらめも早いネヲンは、これは手に負えないと悟り学習を止める理由を探した。

これもすぐに答えが出た。我が総案の事務は手作業のほうが圧倒的に有利であったのと、もし、再就職を考えても60才を超えたオヤジには事務系の職場がないからだ。

ネヲンの ACCESS の話に吉沢君は残念がったが、彼も旅館の仕事をマスターするのに忙しかったのでうやむやになった。吉沢君といえば、フロッピーディスクである。

ネヲンのパソコンには、フロッピーディスクを使う装置がなかったので、実際にはどんな働きをするのかわからなかったが、小さな、小さなレコード盤のようなやつを触った感触が今も残っている。吉沢君ありがとう!

< 完 >